2010/12/09

彼らの行方

試合は持ち前の攻撃力で中盤を支配するスペインに対して、オランダが必死に守りカウンターアタックを仕掛けるという展開となった。スペインは得意のパスワークから幾度となくオランダのディフェンス陣を崩しにかかるが、得点チャンスをものにできず、逆にオランダもゴールキーパーと1対1の局面を作り出すも、いずれもスペインのゴールキーパーのスーパーセーブに阻まれるという緊迫した展開が続いた。

私の観戦するテレビルームでは、オランダ選手の警告承知のラフプレーが目立ってくると、スペイン人スタッフ達がスペイン語で大声で言葉を発し出した。その語気の荒々しさからすると、オランダのラフプレーに激怒しているようだった。オランダ人女性もそれに気づいたようで、少し空気が読めてきたのか、熱烈な応援を幾分抑えるようになった。私はスペイン優勢という試合内容に反してオランダが勝つことがないよう一人願った。

共に幾度かの決定的なチャンスをものに出来ないまま延長戦に突入する。延長後半にオランダの選手がが2枚目のイエローカードで退場になり1人少なくなる一方、スペインの選手も足の不調を訴えてフィールドを離れるなど、互いに満身創痍の状態となってきた。PK戦が脳裏にちらつき始めた延長後半残り4分というところでにスペインの選手が右45度の角度からボレーシュート。これがゴールに吸い込まれた。そして、残り時間をスペインがきっちり守りきり、終了の笛と同時にスペインが悲願の初優勝を決めた。

その瞬間、テレビルームではスペインを応援する多くの人の喜びが爆発した。オランダ人女性2人は完全アウェーの状態で、途中から遠慮しながらも最後まで自国を応援するという精神力とも意地ともいえぬものをみせたが、この結果を受け入れたような表情を浮かべ、スペイン人スタッフに「おめでとう」というような言葉をかけた。

良かった。この日に合わせてポルトガルから来た甲斐があった。試合終了後の騒ぎもひと段落すると、隣に座るラトビアの銀行マンに、これから夕飯でも行かないかと誘われた。しかし、初優勝したスペインの町が、人々が、これからどのように喜びを表現するのかを見る、というボーナスが残されている。私はその誘いを丁重に断り、未知なる夜の町へと一人繰り出した。


 
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2010/12/02

奴らの流儀

カルボナーララーメンで腹ごしらえをした。商店でビールを調達した。後は会場で観戦態勢を整えるのみだ。

観戦会場であるホステルのテレビルームに入ると、想像より部屋のスペースが狭く、席も10人分くらいしかなかった。でも早めに来たせいか席は空いており、空いた席に腰を下ろし早速ビールを飲んだ。周りに座る人と軽く話をする。私の隣に一人で座る25歳くらいの若い男はラトビアの銀行員だった。どうりで英語をうまく話す。どこの国でも銀行員たるもの高学歴なのだ。英語のレベルが高い人と話をすると、どうしても相槌することが多くなってしまう。ただ、相槌する内容のほとんどは理解できてない。

開始時間が迫り、テレビ中継のボルテージも上がってきた。宿の従業員もオーナーも仕事をほったらかしてテレビルームに集まってきた。スペイン人の従業員は、そこに集まった外国人旅行者に、どこの国からきたの?と聞いてまわっていた。そうしたやりとりを見ていると、驚くべきことが発覚した。私の左隣に座る2人の欧米人らしき女性がオランダ人だったのだ。大丈夫だろうか?今日の決勝戦はスペイン×オランダだぞ。

そうした私の懸念をよそに、いよいよ決勝戦が始まった。スペイン人の従業員は両手を合わせ、祈るようにVAMO! VAMO!(行け!)と叫ぶ。当然だろう。初優勝が懸かっているのだ。レアル・マドリードとFCバルセロナという超ビッククラブを有するこのサッカー大国が今まで優勝しなかったのが不思議なくらいだ。スペイン人々がこれまでどれだけ優勝を渇望してきたことか。そんなことを考えていると、試合の序盤にオランダが最初のチャンスを得る。すると左隣のオランダ人女性2人が、「フォー!!!」と叫び盛大に応援しはじめた。

ラリってるのか?
この完全アウェーの状態で自国をこれほど熱烈に応援するとは。いや、さすがだ。さすがガリバー王国だ。態度までデカイ。でも大丈夫か?このサッカーに熱いスペインでこんなことしたら、えらい目に遭うぞ。オランダ大使館にでも行って観戦しないと危ないのでは?

エジプトのカイロで会った駐在員の浜さんの話を思い出す。
エジプトもサッカー熱が高い国だが、今回のワールドカップのアフリカ予選でプレーオフの末、あと一歩のところでアルジェリアかどこかに敗れてしまった。その時、カイロにあるアルジェリア大使館が投石にあったのなんだと大変だったらしい。


もしオランダが勝ったらオランダ大使館もやばいか?オランダ人女性よ、悪いことはいわない。ここで観るなら、せめて静かに観戦するのだ。そんな私の心配をよそに、今度はオランダの方がピンチを招くと、「キャー!!!」と悲鳴をあげる。そんなオランダ人女性の奇声とスペインを応援する人たちの喚声が響くなか一進一退の攻防が続き、試合は終盤に近づいていった。


 
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