2011/02/28

赤を渡る

町に出るとすでに歓喜に沸く人々で溢れかえっていた。通りを少し進むと、ビールだかカクテルだかのビンを地面に叩きつける者、発炎筒を焚く者、下半身を露出する者、というような危険な行為をする人々が現れた。ワールドカップ初優勝という最高の美酒がその気ちがいじみた行為に拍車をかけていることに間違いないようだったが、私は過剰に興奮する人々に対し少しばかり恐れをなした。だが、ここスペインは先進国の一つであることを思い起こし、少々脅える自分を奮い立たせた。

私はこの旅をスタートさせる時、デジカメをはじめとする機械類をほとんど持たずに旅に出た。それは、機械的なものをできるだけ排除して、五感が受けるものをダイレクトに感じとろう、という信条のようなものをもっていたからだ。しかし、旅を続けるなかでいつしか安いデジカメを購入してからは、それほど多いわけではないが、いくつかの風景、光景を写真に収めるようになった。それは、私にいくつかの場面を画として残したいという『欲』が生まれたからであろう。そしてこの夜、また新たな『欲』が生まれた。それはこの光景を動くものとして残したいというものだった。私はその欲に任せてこの旅初めて動画を撮ることにした。

人の流れに沿いカメラを片手に歩くと、スペインの国色である赤いユニフォームやらシャツやらを着ている人が目に付く。また、それと同じくらいスペインの国旗をマントのように背中にまとって歩く人々がいる。ポルトガルといい、スペインといい、国旗のデザインにセンスがあり、そのマント姿が何ともカッコいい。撮影していると数人にジャッキーチェン!ジャッキーチェン!と声を掛けられる。しかし、その言葉に悪意はない。

セビージャの町の中心らしき噴水のある場所まで行くと、そこで騒ぐ人々が噴水によじ登り、噴水が人の山と化していた。ここでも危険な行為や放送コードに触れるような行為をしてる者がいた。そこで15分ほど人々の乱痴気騒ぎを眺めると、スペインの地で優勝の興奮を味わえたことに満足し、宿に帰るためもと来た道を戻った。

そして、200メートルほど歩い時、そこに一台の救急車が。

『GOGO ESPANOL~ESPANOL ESPANOL GOGO ESPANOL~ESPANOL ESPANOL』 

救急車の運転手がマイクを使い、スペイン代表の応援フレーズを叫びながら進んでいく。。。私にはこの救急車の行動が何とも印象に残った。

まずそもそもだ、この救急車は患者を乗せていなかったのかということだ。患者を乗せているのにマイクで叫びながら進んでいたら問題だろう。急病の患者をピックアップにいく途中だったとしても時間のロスで問題だ。仮にそのどちらでもなく、ただ救急車を走らせて、マイクを使って『ESPANOL ESPANOL』と叫んだだけだとしても、日本であれば、公務員のそのような行動は、必ずメディアなり上司なりに叩かれるはずだ。いくら日本がワールドカップを優勝した夜だとしても。

もしかしたら、スペイン人々のこういった屈託ない行動、国民性こそが、世界最大のスポーツの頂点に立つために必要なエッセンスなのかもしれない。日本社会は規則が厳しい。会社、上司の言うことは、ほぼ絶対である。守らなければならないルールというのは確かにあると思う。しかし、状況にかかわらず漠然とルールやマニュアルに従うことの先になにがあるのだろう。

昔、日韓ワールドカップの時に日本代表の監督を務めたフィリップ・トルシエがこう言ったことがある。「日本人は車が通っていないのに赤信号を渡らない。日本人が赤信号を渡らないのは、判断力がないからだ。」トルシエについては、その人格の良し悪しに賛否両論あるが、この発言は日本人の特性についての真理をよくついているように思える。

新大陸を発見した探検家コロンブスの眠るサントドミンゴ大聖堂の横を通りながら、いつの間にかそんなことを考えていた。

日本はいつ新大陸を見つけられるのだろうか。


噴水
before
 


after
 


サントドミンゴ大聖堂
 
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※動画をアップしたかったのですが、やり方が分からず出来ませんでした。